このオーディオブックの副題には「仕事術」という言葉が表記されているが、私はこのオーディオブックには歴史小説や伝記にも通じる普遍的な学びを感じた。
確かにこのオーディオブックには「仕事術」に通じるものも多数収録されているが、残念ながらそれは耳障りの良い「すぐに使えるTIPS」のようなものではない。
このオーディオブックで学べることそれは、一人の普通の少年がプロ格闘ゲーマーになるまでの鍛錬の日々で学んだ勝ち続けるために必要な基本的だが簡単には真似できない生き方そのものである。
小説のような挫折と成長の物語が胸を打つ
このオーディオブックは濃密だがとても聞きやすい。
それは梅原氏の人生がまるでよく出来た小説のように痛快だからだと思う。
- 地方出身者への強烈な疎外感
- 凡人の努力を圧倒する秀才の姉の存在
- 努力しても周囲の人が認めてくれない現実
多くの物語の主人公もそうであるように挫折から始まる梅原氏の物語は聞き手を一気にストーリーに引き込む。
幼いころ修行僧のように日々ゲームと向き合う梅原氏だが、周囲はもちろん彼の姿勢を理解などしてくれない。
梅原氏が子供のころにはプロ格闘ゲーマーなどという職業は世の中に存在していないのだから、孤独な戦いは避けられなかったのだろう。
そんな梅原氏が挫折や孤独を乗り越え次第に大会で結果を残し世界大会チャンピオンになるまでの軌跡はよく出来た小説のように聞き手の心を打つ。
格闘ゲーマーから麻雀の世界へ
格闘ゲームの世界で名を上げていた梅原氏だがゲームで世の中に認めてもらうことに限界を感じ、麻雀の世界に転身する。
格闘ゲームとはいえ一つの世界で頂点まで上り詰めた男が、それを全て捨ててまた一からスタートするという展開には私も驚いた。
一般的な感覚からすると狂気じみているとしか思えないこの行動だが、この頃の梅原氏にとってゲームという存在は、少しも手を抜いて行うことのできない聖なるものだった。
世界一だろうがなんだろうが自らが全力で取り組めないと思ったらやめるというのが若干23歳の梅原氏のとった最善の選択だった。
しかしこのバカみたいに真っ正直な決断が後にプロ格闘ゲーマーとして返り咲く彼のキャパシティ(能力)に常人には辿り着けない別次元の強さを与えたのは想像に固くない。
剣術を得意とする戦士が魔術師の元で修行することで魔導騎士に進化するようなイメージだろうか。
梅原氏は麻雀の世界でも格闘ゲームの時と同じように努力を重ね日本で指折りの雀士にまで成長する。
しかし彼は3年で麻雀の世界からも足を洗うことになる。
雀士から介護師へそして復活
麻雀の世界からも降りた梅原氏は大きな挫折を味わう。彼曰くこれが人生で最初の挫折だったとのことだ。
彼がここで挫折したこと、それを私の言葉で説明するのはとても難しいが彼の本の行間からは「麻雀もいつか格闘ゲームと同じように努力できない日がやってくる」という無力感を感じた。
そして梅原氏は麻雀を辞めゲームも辞め介護師という職につく。
一見すると成功者が落ちぶれたようにも見えるが、この展開はとても物語的でエンターテイメント性に溢れている。
傷ついた主人公が他者との触れ合いを通じて心を回復させていくとはまさに神話と言ってもいいだろう。
介護の仕事は梅原氏の疲弊した心を癒やし格闘ゲーマーとして完全復活するきっかけを与えることになる。
勝ち続ける意志力を分解すると
勝ち続ける意志力とは何なのか?それは以下の4つに分解できると思う。
- 勝敗の優劣より成長に喜びを見出す力
- 努力を継続できる環境を作る力
- 自らの努力の方法を改善していく力
- 自らの本心と正直に向き合う力
一回一回の勝負の優劣ではなく毎日の自分の成長に喜びを見出すこと。一見遠回りに見えるが毎日の成長を軸に置いている人のほうが結果もついてくる。
また努力を継続するだけでなく自らの努力の方法について常に懐疑的になり質の高い努力の方法から模索することも重要。オーディオブックをきくと分かるが幼い梅原少年は恐ろしくメタ視点が多い。
普通の人は自分の本心に適当なところで折り合いをつけるが自らの頭で最後まで考え抜こうとすることも必須のスキル。失敗してもいいから自分の頭で考えてやるということが大事だと梅原氏は言う。
このように勝ち続ける意志力とは言ってしまえば非常にシンプルだが、何かを極めようと日々努力する人たちにとっては原点のような考え方になる。