発行から80万部以上売れたベストセラーのオーディオブック。
あまりにも有名なので今更感はあるが、一度本作を読んだことのある人も耳から再び哲人と青年の対話を聴くことでアドラー心理学の真理をより腹落ちさせることが可能。
例えば「人生のタスク」「課題の分離」「共同体感覚」など対人関係において大切なアドラー心理学の考え方を忘れてしまった人も多いのではないか。
また本書を一度も手にとったことのない人はオーディオブックから入ると青年と哲人の会話がまるで自分と哲人の会話のように錯覚できみるみる内容を吸収できる。
本書(オーディオブック)の最大の特徴は「あらゆる悩みは対人関係の悩みである」と喝破し、人間関係の悩みを克服する考え方を分かりやすい具体例と共に紹介しているところ。
通勤時の電車で聴くと会社に着いた頃には怖い上司もなんとも思わなくなるので注意してほしい。
誤解されがちなタイトルの意味
「嫌われる勇気」はしばしばそのタイトルから誤解して理解されていることがある。
「嫌われる勇気」とだけ聞くと他人に嫌われてもいいから好き勝手に生きよう、のような意味にも取れるが実はそうではない。
本書の中には次のような一文がある、
「自由とは他者から嫌われることを恐れない勇気を持つこと」
つまり本書のタイトル嫌われる勇気とは、嫌われるようなことをしろという意味ではなく、自由になるために人が支払うべきコミュニケーションコストのことを言っているのだ。
例えばあなたを操作しようとしてくる他者がいた場合(それはだいたい親か上司といった存在になるのだが)あなたの人生を取り戻すためならば、他者に嫌われることも恐れるな、という意味がこのタイトルの真の意味である。
課題の分離の正しい理解
アドラー心理学では対人関係の悩みを解決する手法として「課題の分離」という考え方を使う。
「課題の分離」はアドラー心理学のなかでもとても重要な考え方で、簡単に言えば「その行動をしたことで、もしくはしなかったことで、最終的に責任を取るのは誰なのか?を考えて責任を負う者が決定を下し行動していくべき」とする考え方である。
もちろん「行動をしたことで最後に責任を取る者」とは行動する本人のことなのだが、アドラー心理学では「あなたが土足で他人の課題に踏み込むとき対人関係のトラブルが発生する」と説いている。
例えば勉強をしない子供がいた場合、勉強するかしないかは子供の課題であり、親であってもその課題に土足で踏み込んではならないのだ。
「課題の分離」を意識することで、他人との距離感は適切な距離となり、人間関係は良好になる。
ここだけを聞くと「課題の分離」は放任主義で冷たい!と反論する人がいるがそれは大きな誤解だ。
放任主義というのは「私は知らないので勝手にやってくれ」というスタンスだが課題の分離では見放さずに援助し最後に決めるのはあなたですよ、というスタンスを守る。
そして「課題の分離」というのはアドラー心理学では対人関係のゴールではなく入り口の方法論でもある。
課題の分離の先にあるもの「共同体感覚」
「課題の分離」が対人関係における適切な距離のとり方の入り口なら、ゴールはどこにあるのか。
それは共同体感覚であるとアドラーは言う。
共同体感覚とは「他者を仲間だとみなし、そこに自分の居場所があると感じられる状態」のことを言う。そして「共同体感覚」に至るためには、人生のタスクに積極的に関わっていかなければならない。
人生のタスクには
- 仕事のタスク(仕事における人間関係)
- 交友のタスク(仕事を離れた場所での友人関係)
- 愛のタスク(愛する人や家族との関係)
の3つがある。この難易度の異なる3つのステージで社会と繋がり困難に直面しながらも信用関係を作っていくことこそが「共同体感覚」に繋がっている。
共同体感覚を手に入れた人は対人関係で悩むことはなくなり本当の自由を手にしたと言えるだろう。
「共同体感覚」は課題の分離と比べると抽象的でぼんやりしているので、忘れている人も多いだろう。
しかし抽象概念こそ活字よりもオーディオブックという映像を頭に浮かび上がらせる装置が上手くワークする。
何度か聴いているうちに身体感覚として分かってくる体験をぜひ一度試してみてほしい。